【HIEプレップスクール】東京大学理学部公開講演会のすすめ! ――梶田隆章教授ノーベル賞受賞記念連続講演会「カミオカから宇宙をみる」――
みなさん、こんにちは!
両国校国語科講師の福島です。
毎年10月はノーベル賞の受賞者が発表されます。
今年(2016年)は日本では東京工業大学の大隅良典(おおすみ・よしのり)栄誉教授が「オートファジー(Autophagy)」の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
昨年は東京大学の梶田隆章特別栄誉教授がノーベル物理学賞を、北里大学の大村智特別栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
このようなノーベル賞受賞者の研究について調べてみると、様々な発見があります。
私は小林秀雄が相対性理論や量子論から大きな影響を受けていたことを知って以来、現代物理学にも深い関心があります。
そこで、第28回東京大学理学部公開講演会に参加してきました。
この講演会は今年(2016年)4月24日(日)に東京大学本郷キャンパス安田講堂で開催されました。今回は梶田隆章教授ノーベル賞受賞記念連続講演会「カミオカから宇宙をみる」で、3人の講師による講演(①~③)がありました。
私の受付番号は875番で参加者はかなり多く、900人以上いるようでした。小学生から90代のお年寄りまで、幅広い年齢層の人が来ていました。
この人たちと私は梶田教授のノーベル賞受賞とLIGOによる重力波の初観測を知って大興奮したという点でつながっているのです。
そう思うと、ドキドキしてきました!
講演会のプログラムは次のとおりです。
14:00
司会…………横山広美(理学系研究科 准教授)
挨拶…………福田裕穂(東京大学大学院理学系研究科長・理学部長)
14:05―14:45
①「神岡での実験が捉えたニュートリノ」…………中畑雅行(宇宙線研究所 教授)
14:55―15:35
②「ニュートリノ研究の発展と展望―加速器ニュートリノ実験を中心に―」…………横山将志(物理学専攻 准教授)
15:45―16:25
③「重力波でさぐる宇宙」…………安東正樹(物理学専攻 准教授)
16:25―17:00
講演者との歓談の時間
岐阜県飛騨市神岡町は物理学の最先端研究の現場で、東京大学の小柴昌俊特別栄誉教授(1926~)に続き、東京大学の梶田隆章特別栄誉教授(1959~)のノーベル賞受賞を生み出した土地です。ニュートリノや重力波の研究が宇宙の姿を明らかにしつつあります。
1983年、小柴教授は神岡町の神岡鉱山地下1000メートルに「カミオカンデ」という巨大な地下の天文台を完成させました。このカミオカンデで超新星(恒星の生涯最期の爆発)からやってくるニュートリノの観測に世界で初めて成功しました。この観測によって超新星について多くのことが解明されました。
その業績が評価され、小柴教授は2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。授賞理由は「ニュートリノ天体物理学の創始」でした。
カミオカンデは、いまだに観測されていない陽子崩壊とニュートリノの質量という大問題に直面しました。これをさらに追究するためにスーパーカミオカンデが構想されました。
スーパーカミオカンデの建設は1991年に始まり、1996年から観測が開始されました。
1998年に開かれたニュートリノの国際会議で、梶田教授はスーパーカミオカンデでの観測からニュートリノに質量があることを結論づけました。その業績が評価され、2015年にノーベル物理学賞を受賞しました。
①のテーマは「神岡での実験が捉えたニュートリノ」でした。
ニュートリノとは、中性の(電気を帯びていない)小さい粒子(素粒子)です。宇宙で最も豊富な素粒子の一つで、身の回りを光速で飛び交っており、太陽ニュートリノは人間の体を1秒間に数百兆個、大気ニュートリノは1秒間に10万個ぐらい、超新星ニュートリノは瞬間的にものすごい数が通過しています。しかし、他の物質とほとんど反応しませんので、人間がそれを感じることはありません。
2015年のノーベル物理学賞は梶田隆章教授とアーサー・B・マクドナルド教授に授与されました。受賞理由は「ニュートリノ振動、それによるニュートリノ質量の発見」です。
梶田教授とマクドナルド教授はニュートリノが別種のニュートリノに変身する「ニュートリノ振動」という現象を発見しました。それまでニュートリノは質量がゼロだと考えられていましたが、もしそうならニュートリノ振動は理論的に起きえません。ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノに質量があることを意味しています。これは素粒子物理学の基礎となる「標準理論」を超えた成果だといえます。
②のテーマは「ニュートリノ研究の発展と展望―加速器ニュートリノ実験を中心に―」でした。
1998年にスーパーカミオカンデで「ニュートリノ振動」が発見されて以降、この現象をより詳細に調べるため、粒子加速器で人工的に作ったニュートリノを数百キロ離れた測定装置で観測する実験が、世界中で行われるようになりました。その中で、スーパーカミオカンデ検出器を利用した日本の実験は世界をリードする成果を出し続けています。これらの成果を受け、次世代ニュートリノ測定装置「ハイパーカミオカンデ」を建設する計画が進んでいます。
③のテーマは「重力波でさぐる宇宙」でした。
2016年2月11日、アメリカの大型レーザー干渉計重力波望遠鏡LIGO(Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory)が重力波の初の直接観測に成功した、という発表がありました。地球から約13億光年離れた場所でブラックホール連星が合体し、より大きなブラックホールになる瞬間を捉え、その際に放出された重力波を観測したのです。
この過程を示す映像は、あたかも男女が恋に落ちて燃え上がり秘かに結ばれて愛が深まる様子のように見えます。重力波は愛の証しを示す波なのです。私は恋愛映画を観たような気持ちになり、大変感動しました。
この映像はYouTube(たとえば、サイエンスZERO「世紀の観測!重力波~アインシュタイン最後の宿題~」など)で見ることができますので、ぜひご覧ください。
私は『小倉百人一首』の中にある権中納言敦忠の歌(第43番、所載歌集『拾遺集』恋二・710)を思い出しました。
《逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり》
この歌は「あなたと逢って契りを交わしたあとの心に比べたら、昔は何も思わなかったのだなあ」という意味です。ブラックホール連星が契りを交わした後、どのようなドラマが展開していくのでしょうか?
重力波の存在は、今から約100年前に一般相対性理論(1915―1916年)の帰結の一つとして、物理学者アルベルト・アインシュタイン(1879―1955)によって理論的に予言されました。一般相対性理論では、重力は時空の歪みとして理解されています。この歪みの変動が波として空間を伝搬していくものが重力波なのです。その存在は、連星パルサーの電波観測から間接的に証明はされていますが、直接観測されたのは今回が初めてでした。これにより「アインシュタイン最後の宿題」は解決され、宇宙を観測する新たな手段となる「重力波天文学」が幕を開けたのです。
国内でも重力波望遠鏡KAGRAの建設が現在進められていて、2018年頃の本格観測を目指しています。重力波は物質をほぼ素通りして伝わることから、高エネルギー天体現象の中心部やブラックホール近傍、宇宙誕生直後の姿などを直接観測することも期待できます。
私はこの講演会に参加して、宇宙の謎を解明する魅力と宇宙の神秘を実感することができました。もし私が今10代でしたらニュートリノや重力波の研究を志したことでしょう。
入場する際、受付で「東京大学大学院理学系研究科・理学部公開講演会聴講カード」をいただきました。東京大学理学部公開講演会に参加するごとにスタンプを1個カードに捺印してくれます。スタンプを5個集めましたら、東京大学大学院理学系研究科長が記念品をプレゼントしてくれるそうです。
みなさんも東京大学理学部公開講演会に参加してみませんか?
東京大学理学部公開講演会の詳細は、東京大学理学部のホームページをご覧ください。
今年の3月30日にJPタワーホール&カンファレンスにおいて開催された「梶田隆章教授ノーベル賞受賞記念講演会」は東大TV(UTokyoTV)で見ることができます。
東大TVは、東京大学で開催された公開講座や講演会の動画を配信する大学公式ウェブサイトで、会員登録も費用も不要です。
東京大学では様々な学術イベントが開かれています。
今年の12月26日(月)と27日(火)13:00~16:00に東京大学本郷キャンパス理学部化学本館5F講堂(理学部1号館隣)で、東大理学部高校生のための冬休み講座が開催されます。
定員は150名(事前申込制・先着順)、参加費は無料、対象は高校生・中学生です。
受講者全員に東京大学理学部シャープペンをプレゼントしてくれるそうです。
関心がある方はぜひご参加ください。
講義内容は次のとおりです。
12月26日(月)
講義1=塩見美喜子先生「小さいRNAは今日も大忙し ~遺伝子のON/OFを決定するしくみ~」
講義2=北山貴裕先生「トポロジー:空間のかたちをやわらかく考える」
12月27日(火)
講義1=岡林潤先生「スペクトルと科学 ~知りたいことはスペクトルにある~」
講義2=佐野雅己先生「物理学とは何だろうか ~高校生に理系をすすめる7つの理由~」
[参考文献]
・『ニュートン別冊 小柴博士につづき、梶田博士もノーベル賞! 物理学をゆるがすニュートリノ』(ニュートンプレス、2016・2)