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【HIEプレップスクール】 怖くて面白い百鬼夜行の謎を解く! ――2016年度センター古文『今昔物語集』の省略部分――

      2016/07/09

みなさん、こんにちは! 
両国校国語科講師の福島です。
2016年度大学入試センター試験(本試験)の国語の平均点は昨年よりも約10点上がり、129点(200点満点)でした。これは古文が易化した影響が大きいと考えられます。
私の教え子たちは国語の平均得点率が約8割5分で、良い結果を出してくれました。中でもYさんは満点を取ることができて大変喜んでいました。

写真A・センター古文

写真B・センター古文

写真C・センター古文

2016年度センター古文は、男が鬼に透明人間にされてしまうという怖くて面白い話(観世音菩薩霊験譚)です。大晦日の夜、ある若侍が一条堀川の橋で鬼の行列に出会い、鬼に唾を吐きかけられて姿を隠されてしまいます。しかし、六角堂の観音に祈念したことによって元の身に戻ります。  
今回のセンター古文の出典は、平安時代末期の『今昔物語集』「巻十六 本朝 仏法に付く」の「隠形の六角堂の観音の助けに依りて身を顕はす語第三十二」です。
センター古文の本文は、この文章の冒頭部と最終部が省略されています。また、和漢混交文(カタカナと漢字が混じった文)の原文が読みやすくなるように直されています。
省略された部分をセンター古文の表記に合わせて直し、次に示してみましょう。

《今は昔、いづれの程の事とは知らず。京に生侍の年若き有りけり。常に六角堂に参りてねむごろに仕りけり。
しかる間、十二月の晦日、夜に入りて、ただ独り知りたる所に行きて、夜更けて家に帰りけるに、一条堀川の橋を渡りて西へ行きけるに、西より多くの人、火を燃(とも)して向かひ来たりければ、「やむごとなき人のおはしますこそ有りぬれ」と思ひて、男橋の下に急ぎ下りて、立ち隠れたりければ、この燃(とも)したる者ども、橋の上を東様に過ぎけるを、この侍、やはら見上げければ、早う人には非ずして、怖ろしげなる鬼どもの行くなりけり。あるいは目一つ有る鬼も有り、あるいは角生ひたるも有り。あるいは手あまた有るも有り、あるいは足一つして踊るも有り。男、これを見るに、生きたる心地もせでものもおぼえで立てるに、この鬼ども皆過ぎ持て行きて、後(しりへ)に行く一つの鬼に云はく、「ここに人影のしつるは」と。亦、鬼有りて云はく、「さる者見えず」。「かれ速やかに搦(から)めてゐて来」と。(中略)
その後(のち)、姫君も男も身に病ひ無かりけり。火界の呪の霊験の致すところなり。
観音の御利益にはかかる希有の事なむ有りける、となむ語り伝へたるとや。》(括弧内は語句の読みを示す)

現代語訳は次のとおりです。

〈今は昔、いつごろのことかは知らない。京に年若い侍がいた。六角堂に参詣し熱心に信心していた。
さて、ある十二月の大晦日、夜になって、たった一人で知り合いの家に行って、夜が更けて家に帰る途中、一条堀川の橋を渡り西に行くと、西から多くの人が松明をともしてやってくるので、「高貴な方がいらっしゃるのだ」と思って、男は橋の下に急いで下りて、隠れていたところ、この松明をともした人々が、橋の上を東の方に渡って行くのを、この侍がそっと見上げると、なんと人間ではなくて、恐ろしい鬼たちが行くのであった。一つ目の鬼、角の生えた鬼、手がたくさんある鬼もいて、一本足で踊る鬼もいる。男はこれを見て、生きた心地もしないで呆然と立っていたが、この鬼たちがみな通り過ぎて、そのあとを歩いている一人の鬼は、「ここに人影が見えたぞ」と言う。またほかの鬼は、「そんな者は見えない」、「そいつをすぐに連れてこい」と言う。(中略)
その後、姫君も男も病に取りつかれることはなかった。これは火界の呪の霊験のいたすところである。
観音のご利益にはこのような不思議なことがあった、と語り伝えているということだ。〉

『今昔物語集』では、全話の冒頭が「今ハ昔」で始まり「トナム語リ伝へタルトヤ。」という言葉で終わります。「今ハ昔」という始まりは、映画『スター・ウォーズ(STAR WARS)』が「A long time ago in galaxy far, far away」(遠い昔、遥か彼方の銀河系で)という言葉で始まるのと共通しています。空想の世界で昔の出来事(物語)を語るという形式は、人々を物語に引き込んでいく効果があります。
若侍が鬼と出会った一条堀川の橋は、一条戻橋を指します。一条戻橋とは一条大路と東堀川が交わったところに架けられていた橋です。この橋が一条戻橋と呼ばれるようになった理由は鎌倉時代の『撰集抄』巻七第五「仲算佐目賀江の水堀出す事」(岩波文庫、210頁)の次の一節を読むと分かります。

《(略)浄蔵、善宰相のまさしき八男ぞかし。それに八坂の塔のゆがめをなほし、父の宰相の此世の縁つきてさり給ひしに、一條の橋のもとに行きあひ侍りて、しばらく観法して蘇生したてまつられけるこそ、つたへ聞くにもありがたく侍れ。さて、その一條の橋をば戻り橋といへる、宰相のよみがへる故に名づけて侍り。》

この説話によれば、浄蔵が一条の橋のたもとで父親である善宰相の葬列に行きあい、法力によって宰相を蘇生させたことから、その橋に「戻橋」という名が付きました。つまり、浄蔵の父親が死の世界から生の世界へ戻って来たことによって、一条の橋は「戻橋」と呼ばれるようになったのです。
一条大路の先に蓮台野という葬送の地があり、一条大路を葬式の行列が通ることが多かったので、平安京の鬼門にある一条戻橋は生と死の境界として認識されていました。そもそも平安京の北端に位置する一条大路自体が平安京の内の世界と平安京の外の世界との境界であり、人間と異界のモノとが出会う場所でもあったのです。
一条戻橋のすぐ近くには陰陽師の安倍晴明の家がありました(現在、この邸宅跡は晴明を祀った晴明神社になっています)。晴明は十二神将を式神として使っていました。しかし、妻が式神をひどく恐れるので、それを戻橋の下に置いて用事のある時だけ呼んで使うようにしたそうです。
田中貴子氏は『百鬼夜行の見える都市』(新曜社)の中で、「橋の下に呪し置かれた式神が何らかの理由で陰陽師の手を離れ、化けて出たのが百鬼夜行ではないか」(141頁)と推論しています。

写真1・百鬼夜行

写真2・百鬼夜行写真3・百鬼夜行

百鬼夜行は「ひゃっきやぎょう」あるいは「ひゃっきやこう」と読み、『岩波四字熟語辞典』(岩波書店)では「妖怪などの異類が夜に列をなして歩くこと。転じて、多くの人間がこもごも妖しく醜い行いをするさま。」(544頁)と説明されています。
恐ろしげな妖怪たちが夜に現れて行列をなして徘徊する現象を平安時代の人々は「百鬼夜行」と呼びました。たとえば、前述の『今昔物語集』の若侍は、一つ目の鬼、角の生えた鬼、手がたくさんある鬼、一本足で踊る鬼など、多様な鬼の行列を一条戻橋で見ました。怖いですね。
現在も京都には一条戻橋や晴明神社があります。この行列に関心がある方は京都に行ってみるとよいでしょう。百鬼夜行に出会えるかもしれませんよ。
現在、一条大路は一条通りと呼ばれています。毎年10月中旬にここで妖怪仮装行列「一条百鬼夜行」が開催されています。
京都市の大将軍商店街は2005年より一条通りを「百鬼夜行の通り道」「妖怪ストリート」と銘打ち、様々な妖怪イベントを企画し、妖怪によるまちおこしをしています。その中心的なイベントが「一条百鬼夜行」です。その他には妖怪アートフリマ「モノノケ市」、嵐電「妖怪電車」などのイベントがあります。マスコットキャラクターは「夜行童子」です。
一条通りには「大将軍商店街振興組合事務所」の2階に、妖怪の模型を展示し妖怪に関する書籍や資料を集めた「百鬼夜行資料館」があります。詳しくは「京都 一条妖怪ストリート 大将軍商店街振興組合」のホームページ(HP)をご覧ください。
室町時代には「百鬼夜行絵巻」という絵画のジャンルが流行し、江戸時代に隆盛を極めた「お化け絵」の源流となりました。「百鬼夜行絵巻」で主に描かれているのは、『今昔物語集』に描かれたような異形の鬼ではなく付喪神です。付喪神とは年を経て捨てられた器物(道具)の妖怪(化物)です。
田中貴子氏らによる『図説 百鬼夜行絵巻をよむ』(河出書房新社)を見ると、不思議な妖怪がたくさん出てきます。妖怪に関心がある方は、ぜひご覧ください。
ちなみに、ゲーム『妖怪ウォッチ2』(2014年)の中で、深夜から夜明け方にさくら中央シティの周辺の道路をうろついていると百鬼夜行に出会えるらしいです。ゲームが好きな方は試してみてください。

写真4・百鬼夜行X

4千年の妖怪表現を辿る「大妖怪展~土偶から妖怪ウォッチまで~」が2016年7月5日(火)から8月28日(日)まで東京都江戸東京博物館で開催されます。観覧料(税込)は一般1350円、大学生・専門学校生1080円、小学生~高校生・65歳以上680円です。
室町時代中期(16世紀)に描かれたとされる伝土佐光信作の名品『百鬼夜行絵巻』(真珠庵蔵、展示期間は8月2日~28日)も展示されますので、ぜひご鑑賞ください!
百鬼夜行は日本文化の一つです。京都や「大妖怪展」に行って百鬼夜行の本質について考えてみると、日本文化の理解が深まりますよ!

〔参考文献〕
・『今昔物語集②』新編日本古典文学全集36、馬淵和夫+国東文麿+稲垣泰一/校注・訳、小学館、2000・5
・『今昔物語集三』新編日本古典文学大系35、池上洵一/校注者、岩波書店、1993・5
・『撰集抄』西尾光/校注者、岩波文庫、1970・1
・田中貴子『百鬼夜行の見える都市』新曜社、1994・3
・『岩波四字熟語辞典』岩波書店、2002・10
・田中貴子+花田清輝+澁澤龍彦+小松和彦『図説 百鬼夜行絵巻をよむ』河出書房新社、1999・6

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